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山口地方裁判所 昭和62年(行ウ)1号 判決 1989年5月25日

原告 寿総業株式会社

被告 岩国市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六二年一月三〇日付で原告に対してしたし尿浄化槽清掃業許可申請の不許可処分はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬処理、各種浄化槽の維持管理等を営業目的として昭和五八年八月八日設立された株式会社(以下、「原告会社」という。)であり、昭和六一年三月二九日に山口県浄化槽保守点検業者条例(昭和六〇年山口県条例第二四号)五条一項の規定により浄化槽保守点検業者として登録し、浄化槽の保守点検業務を行っている者である。

2  原告会社は、昭和六一年八月五日、被告に対し、浄化槽法三五条の浄化槽清掃業の許可申請をなしたところ、被告は、昭和六二年一月三〇日付で左記理由を付して右申請に対し不許可処分をした。

(一) 原告会社は、昭和五八年一一月から昭和五九年六月までの間、し尿浄化槽清掃業の許可なきにもかかわらず許可あるごとく装い顧客を勧誘し、し尿浄化槽清掃のみならず収集運搬までの契約を結び、料金まで徴収している。

このことは、直ちにやめるよう指導したにもかかわらず原告会社はこれを無視した。

(二) 無許可で契約した業務を訴外有限会社朝日衛生興業(以下、「訴外朝日衛生」という。)に行わせ、浄化槽設置者から契約料金を受領し、その一部を天引きして訴外朝日衛生に支払っている事実がある。

(三) 被告は、昭和六〇年七月以降原告会社と会社の代表者及び役員の一部が同一人物である訴外有限会社寿総業(以下、「訴外有限会社」という。)と裁判で係争中であるが、この裁判で訴外有限会社と原告会社との関係を争う中で、被告は原告会社の前記(一)及び(二)の違法行為について指摘している。

(四) 前記の経過から原告会社は、違法行為であることを熟知しているにもかかわらず、昭和六一年一〇月から同年一一月までの間、岩国営業所の担当業務として隣接の由宇町において、無許可で浄化槽の清掃及び収集運搬の契約を結んでいる。

以上により浄化槽法第三六条第二号ホに該当するものである。

3  被告主張の不許可理由は、いずれも原告の行為についての事実の誤認ないし不当な評価に基づくものである。すなわち、

(一) 不許可理由(一)について

原告会社設立前、原告と営業目的を同じくし、実質的に原告会社の前身にあたる訴外有限会社があり、同社は昭和五八年五月一一日被告から、期限を昭和五九年三月三一日までとする岩国市における清掃業の許可を得て顧客を獲得し、清掃業を営んできた。同社は廃棄物処理法七条の許可(以下、「七条許可」という。)を得られなかったため、訴外朝日衛生に浄化槽の清掃に伴って発生する汚でい(以下、「発生汚でい」という。)の収集、運搬、処分等の処理を委託していた。右清掃業の許可を受けて後、訴外有限会社は株式会社に組織変更することを企図したが、同社代表者らの法的知識の欠如及び右組織変更の手続を依頼した税理士との意思疎通が不十分であったことから手違いが生じ、訴外有限会社と営業目的を同じくする原告会社が設立されることとなった。

両会社は法人格としては別個であるが、実質的には同一性があり、被告が不許可理由の(一)でいう無許可営業は、実質的には、清掃業の許可を得てした訴外有限会社の営業であって、右営業について、被告から訴外有限会社ないし原告会社に対して指導、注意がなされた事実はなく、被告はこれを黙認していた。

(二) 不許可理由の(二)について

前記のとおり発生汚でいの収集運搬を訴外朝日衛生に委託しており、訴外有限会社は、その際の委託契約に基づき、訴外朝日衛生に対し委託料を支払ってきたものであって、何ら違法行為をなしたわけではなく、またこれも原告会社と関係のない行為である。

(三) 不許可理由の(四)について

原告会社が、山口県玖珂郡由宇町において各顧客と締結したのは、原告会社が山口県において登録済の浄化槽の保守点検業務についてであり、被告主張のような契約はしていない。

4(一)  し尿浄化槽清掃業の許可は、いわゆる警察許可であって、申請者につき、(イ)厚生省令で定める技術上の基準に適合し、(ロ)欠格事由に該当しないときは、市町村長は必ず許可しなければならないとされている。そして浄化槽法三六条二号ホは欠格事由として申請者が、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある」場合を掲げているが、これは、過去において許可取消処分と再申請を何度も繰り返し、許可を与えても又取消処分を受けることが明らかである場合のように申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できない者を排除する趣旨である。

(二)  原告会社は広島県内で広島市、大竹市、廿日市町、宮島町において浄化槽法三五条の浄化槽清掃業の許可及び七条許可を得て適切な業務運営を行っており、厚生省令の技術上の基準に適合していることはもとより、同法三六条二号ホに該当するような事由は全くない。

(三)  原告会社は岩国市においては、七条許可を得られないので、清掃業の許可を得た場合、浄化槽の清掃に伴う発生汚でいの処理体制を整えることが必要であるが、この点については、当該浄化槽設置者から七条許可を受けている業者(以下、「七条許可業者」という。)に汚でいの収集運搬の依頼をなさしめることによって処理するとの方針をたてており、これにより浄化槽の清掃に伴い引き抜かれた汚でいが放置されるなどの環境上の不適合を生じるおそれはない。

以上のとおり、原告会社は、その事業の用に供する施設及び浄化槽清掃業者としての能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合し、浄化槽法三六条二号所定の欠格事由のいずれにも該当せず、被告が、原告会社の本件申請に対してなした不許可処分は、裁量の範囲を逸脱した違法なものであるから取り消されるべきである。よって請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3については、(一)の事実中、原告会社の設立が組織変更の手違いであったこと及び無許可とされる営業が訴外有限会社の営業であったこと、及び原告会社の無許可営業につき、被告が指導、注意をなさなかったとの点は否認し、その余の事実は認める。(二)及び(三)の主張は争う。

3  同4の主張はいずれも争う。

三  被告の主張

1  処分理由の(一)について

原告会社が処分理由の(一)記載の無許可営業をなすにいたった経緯及びその実態は、以下のとおりである。

(一) 訴外有限会社は、昭和五八年五月一一日、発生汚でいについては訴外朝日衛生に収集、運搬、処分等の処理を依頼するとの作業計画のもとに、被告から許可を受けて岩国市における清掃業を開始した。

(二) 昭和五八年九月九日被告に対し、原告会社名義で許可事項変更申請書の提出があり、被告において調査したところ、訴外有限会社は、昭和五八年八月一日その目的を変更して廃棄物処理関係の事項は削除し、従前の訴外有限会社と同じ廃棄物処理等を目的とする原告会社が昭和五八年八月八日に設立されていることが判明した。

(三) 原告会社は自社が訴外有限会社の組織変更によって成立した旨強弁したが、被告としてはこれを認め難く、訴外有限会社と原告会社の間には法人格に同一性がないと判断し、訴外有限会社に対しては廃止届を出すよう求める一方、原告会社に対しては無許可営業を行わないよう注意し、改めて原告会社として清掃業の許可を受けるよう指導した。

(四) 原告会社は、昭和五九年三月一九日被告に対して清掃業の許可申請をしたが、発生汚でいの処理についての対処としては、訴外朝日衛生と訴外有限会社との間の発生汚でいの処理等の委託契約書の写しを添付しただけであったため、被告は原告会社としては発生汚でいの処理体制が不充分であると判断し、右申請を不受理とする扱いをした。

原告会社は、右の事情で、清掃業につき許可を受けないまま昭和五八年一一月から昭和五九年六月までの間、「岩国市公認」を詐称し、営業所の看板にその表示をし、「岩国市公認」を冠称印刷した契約書を作成し浄化槽設置者との間で浄化槽の保守点検及び清掃契約を締結し、右契約に基づいて、昭和六〇年二月まで右作業を実施した。

2  処分理由の(二)について

原告会社は、前記浄化槽清掃委託契約に基づいて、浄化槽設置者らから清掃毎に料金を受け取ってきたが、右清掃作業自体は、原告会社の委託を受けた訴外朝日衛生が行ない原告会社は右清掃業料金から天引きして訴外朝日衛生に対する料金を支払っていた。この点につき原告会社は、訴外朝日衛生に支払う清掃料については約定に基づく料金を別途支払っていた旨主張するが、訴外朝日衛生と原告会社の間で、原告会社が手数料を取得するとの定めはなく、また、原告会社が被告から清掃業の許可を得ていなかったことからすると、清掃契約をすることはもちろん、これを他人に委託した場合も手数料を取得し得る立場にはないのである。

3  処分理由の(三)及び(四)について

被告は原告会社に対して、前記1、2のような違法行為をなさぬよう再三注意してきたが、昭和六〇年七月以降は、原告会社と役員の一部を同じくする訴外有限会社との裁判の場で、訴外有限会社に対し、右違法行為につき注意を喚起したにもかかわらず、原告会社は、町長の許可を得ずに昭和六一年一〇月から同年一一月までの間、岩国営業所の担当業務として、山口県玖珂郡由宇町において、浄化槽設置者との間で浄化槽の清掃契約を締結した。

4  本件不許可処分の適法性

前記1ないし3の事実に照らせば、原告会社は浄化槽法三六条二号ホの欠格事由に該当することが明らかである。

また、七条許可を有しない清掃業者が清掃業の許可申請をする場合、発生汚でいが環境汚染を引きおこさぬようこれを処理しうる体制が整えられていることを要するところ、この点につき、原告会社は、本件申請に際し、「発生汚でいの収集運搬については当該浄化槽設置者から廃棄物処理法七条許可業者に汚でいの収集運搬の依頼をなさしめることによって処理する」旨記載した作業計画書は提出したが、右作業計画では、七条許可業者との連携の得られない原告会社が浄化槽から引き抜いた汚でいを速やかに七条許可業者に引き取ってもらえる保証があるのか不明で、七条許可業者もまた自身の汚でい処理計画に基づいて汚でいの収集計画をたてていること、現今の交通事情の下では、日時を打合せて清掃、収集運搬を同時に行うとしても、齟齬をきたすおそれがあること等に照らすと原告会社の処理体制では、発生汚でいが放置される事態が生じるおそれがあり、この点につき原告会社は何らの証明をしないばかりか、前記1ないし3の事実に照らすと、原告会社は清掃業者としての資質、適格に欠け、原告主張のような作業計画を認めた場合、発生汚でいの取扱いについても不正又は不誠実な行為をするおそれがあるというべきである。

四  被告の主張に対する認否

いずれも争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(原告会社の目的、営業内容)及び2(本件許可申請とこれに対する不許可処分)は当事者間に争いがない。

二  本件不許可処分の適法性について

1  本件不許可処分に至る経緯

右当事者間に争いのない事実に、いずれも成立に争いのない乙第一号証、第三、第四号証、証人河野孝雄、同園崎義雄(但し、後記措信しない部分を除く。)の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告会社の設立に先立ち、原告会社と役員の一部を共通し、一般廃棄物の処理、浄化槽清掃等を目的とする訴外有限会社が存し、訴外有限会社は、昭和五八年五月一一日、発生汚でいは訴外朝日衛生に収集運搬させるとの作業計画の下に、被告から昭和五九年三月三一日までの期限付きの許可を得て、岩国市における清掃業務を開始した(当事者間に争いがない。)。

(二)  その後間もなく、訴外有限会社は株式会社に組織変更することを企図したが、税理士のすすめで、昭和五八年八月八日、株式会社である原告会社を新たに設立し、訴外有限会社の従前の営業をすべて引き継ぐこととし、これに伴って訴外有限会社はその目的を変更し、一般廃棄物の処理、浄化槽清掃業等の目的を廃した。しかし、原告会社の代表者らは、両会社は法人格において同一性を有するものと考え、先に訴外有限会社が得た清掃業の許可について原告会社名義で岩国営業所の所在地及び同所長を変更する旨の許可事項の変更申請をなした。被告は、これに対し、訴外有限会社と原告会社が別人格であることから、訴外有限会社に対しては廃業届を出すことを求める一方、原告会社に対しては、許可を受けないで清掃業を営まないよう注意した。

(三)  原告会社は、昭和五九年三月一九日被告に対し、清掃業の許可申請をなしたが、発生汚でいの処理体制を明らかにするものとしては、従前、訴外有限会社と訴外朝日衛生との間に締結された委託契約書の写しを添付しただけであったため、結局書類の不備として受理を拒否された。

(四)  そこで原告会社代表者らは、訴外有限会社の目的を旧に復し、訴外有限会社が発生汚でいについてはその処理を訴外朝日衛生に委託するものとし、従前と同様の訴外朝日衛生との委託契約書を添付したうえ、改めて昭和五九年一二月二六日被告に対し清掃業の許可申請をなし、右申請はいったん受理されたが、それまでに右委託契約に関して料金をめぐるトラブルが生じ、訴外朝日衛生は、訴外有限会社であると原告会社であるとを問わず、汚でい処理の委託を受けることを、一切拒否するに至っており、これを知った被告は、訴外有限会社の右許可申請につき、発生汚でいを処理する体制が整っていることを示す書類の添付がないものとして、先にした受理を取り消した。

(五)  原告会社は、昭和六一年八月五日本件許可申請をなしたが、前記の事情から発生汚でいの処理については岩国市における七条許可業者との委託契約を締結できる見込みがなかったので、発生汚でいは清掃の都度、当該浄化槽設置者から七条許可業者に収集運搬を依頼せしめるとの作業計画書を添付した。

右認定に関し、証人園崎義雄の証言中には、被告から原告会社に対し、無許可営業についての注意はなかった旨の供述部分が存するが、右供述部分は、証人河野孝雄の証言に照らし措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  浄化槽清掃業の許可について

浄化槽清掃業を営もうとする者は浄化槽法三五条の許可を受けねばならないが、清掃時、浄化槽から引き抜いた汚でいの収集運搬、処分等の処理が必要となるところ、右汚でいは廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、「廃棄物処理法」という。)の一般廃棄物に該当するから、その処理をなすには、同法七条の許可を要することになる。

ところで市町村は一般廃棄物の処理を業者に代行させることはできるが、本来これは市町村の自治事務であって、右業者も市町村の処理計画に従って処理しなければならず、したがって、業者に対する七条許可も、市町村の処理計画、処理能力に照らして判断すべきものであり、市町村は右許可にあたってその廃棄物処理の実情を前提に専門技術的政策判断を尊重した広範な裁量権を有するものと解される。しかし浄化槽の清掃業務自体には、原則として市町村の義務とされていることから生じる一般廃棄物処理業のような事情はなく、清掃業の許可は営業の自由を規制するものであるから、申請が法令に規定された基準に適合する限り当然許可しなければならない覊束裁量行為であると解すべきであって、右許否の判断に際し、浄化槽法の定める許可基準以外の事情、例えば新規業者の参入による業者の経営不安がもたらす弊害或いは当該自治体の汚でい処理計画との適合性(これは七条の許可の際判断すれば足りる。)等を考慮し、不許可にすることは許されない。

そして、浄化槽法三六条に定める許可基準は、申請者につき、厚生省令で定める一定の技術上の基準に適合していること(同条一号)及び法定の欠格事由に該当しないこと(同条二号)であるが、右欠格事由のうち、ホに規定する「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」との欠格事由は抽象的であって、その判断基準を具体的に示すことは困難であるが、その趣旨は、申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できないことが明らかな者を排除することにあると解すべきである。

3  本件不許可理由について

(一)  いずれも成立に争いのない甲第六号証の三四、三五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証の五ないし一二、二五、二六、二八ないし三三並びに証人園崎義雄の証言によれば、原告会社が浄化槽法三六条一号の基準に適合していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  次に、原告会社に浄化槽法三六条二号ホに該当する欠格事由が存するか否かについて判断する。

まず、本件不許可理由のうち、原告会社がし尿浄化槽清掃業を無許可で営業したとする点について検討するに、前示のとおり原告会社に対して岩国市における清掃業の許可がなされたことはなく、被告からは無許可営業をしないように注意されていたものであり、成立に争いのない乙第六号証、第八号証の一、二、第九、一〇号証の各一ないし三、第一一ないし第一三号証の各一、二、第一三号証の三の一、二、同号証の四ないし六、証人河野孝雄、同園崎義雄の各証言、昭和六一年五月八日当時の原告会社社屋を撮影した写真であることに争いがない乙第七号証の二によれば、原告会社は昭和五八年一一月頃から昭和五九年九月頃までの間、岩国市内の多数の浄化槽設置者との間に浄化槽の点検調整及び清掃等の委託契約を締結し、右契約に基づいて清掃を実施したこと(但し、現実に清掃を担当したのは訴外朝日衛生である。)、右各契約の締結に際しては、原告会社名に「岩国市公認許可番号第一四四号」と冠称した「し尿浄化そうのしおり」(乙第六号証)を各設置者に配布し、原告会社岩国営業所の表に取り付けられた看板にも「岩国市公認」と表示していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の点につき原告会社は、右各清掃契約は、実質的には訴外会社の営業である旨主張するが、前掲各証拠に照らし、主張は採用し難い。

また、いずれも成立に争いのない乙第一四、第一五号証、証人河野孝雄の証言によれば、原告会社は、昭和六一年一〇月から同年一一月にかけて山口県玖珂郡由宇町において、浄化槽設置者らと浄化槽の保守点検及び清掃等の委託契約を締結したが、右のうち清掃については同町における清掃業の許可を受けていないこと、但し、右期間中、原告会社が現実に清掃を実施したことはないことが認められ、右認定に反する証拠はない。原告会社の営業に関与している証人岡崎義雄は、その証言で清掃業の許可を得ていない以上、由宇町では清掃を実施するつもりはなく、浄化槽の保守点検業者として保守点検についての契約のみをするつもりであったが、由宇町における原告会社営業員の無知のため清掃をも内容とする契約を締結するに至った旨を供述する一方、由宇町における清掃の実施は、訴外由宇衛生社に委託すべく、同社と契約を締結している旨供述するが、右前段の証言と後段の証言はそれ自体矛盾し信用性に乏しいものであるが、後段の証言については、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証の一、二に照らし措信し難く、前段の証言についても不自然な供述であって措信し難いところであり、仮に原告会社において清掃を実施するつもりがなかったとしても、右清掃契約の締結が清掃業の一環をなすものであるから、原告会社が由宇町において無許可で清掃業を行ったこと自体は明らかである。

ところで、浄化槽清掃業は、生活環境の保全、公衆衛生に深くかかわる事業であることから、法は技術上の水準の他に各種の厳格な欠格事由を定めて不適格な業者を排除し(浄化槽法三六条)、さらに、生活環境の保全及び公衆衛生上必要があると認めるときは、市町村長は業者に対し必要な指示をなしうる旨定め(同法四一条一項)、これに従わない業者の許可を取り消しうるものとし(同条二項五号)、また無許可営業については罰則をもってこれに臨んでいる(同法五九条六号。なお改正前の廃棄物処理法二五条一号も同様の規定である)。このような許可制とされている以上、例え厚生省令で要求される技術水準に適合し、他市町村では的確に清掃業を行っている業者といえども新たな市町村で営業を始めようとする者は、当該市町村長の適正な審査、許可を受けることなく営業をなしえないのは自明であって、公的な規制、監督を故意に免れようとする無許可営業は許可制によって守られる公共の利益を侵害する類型的な違法行為というべく、市町村としては、このような業者の存在を看過することはできず、また市町村は業者の業務の遂行状況を監視し、違法行為を発見した場合は、適切な指導をなすべきであるが、無許可営業はいわば業者における法規無視の資質の徴表であって、このような者には、行政庁の指導に従うことが期待し難く、また無許可営業を一般的に予防する必要から、無許可営業の前歴のある者は「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」に該当するというべきである。

(三)  そうすると、原告の浄化槽清掃業の許可申請に対し、岩国市及び由宇町における無許可営業を理由に、被告がなした本件不許可処分は、その余の点について判断するまでもなく、いまだ浄化槽法の認める裁量の範囲を逸脱した違法のものということはできない。

三  以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大西浅雄 大西良孝 三木昌之)

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